日本はCT・MRI台数が世界トップクラスにもかかわらず、放射線科医が不足し未読影画像が増加しています。本記事では放射線科医が語る、遠隔読影の現状と課題、そして質を担保する新しい仕組みについて提案します。
はじめに
医療現場において画像診断の重要性は年々高まっています。日本は世界的に見てもCTやMRIの設置台数が非常に多い国ですが、その一方で放射線科医の数は圧倒的に不足しています。そのアンバランスさから、実際には「誰にも読まれていない画像」が存在しているのが現状です。
未読影画像が生じることは、患者さんにとって正確な診断の機会を逃すリスクにつながります。これは単なる医療体制の不備ではなく、診療の質や安全を脅かす深刻な課題です。
ではなぜ、このような状況が生まれているのでしょうか。背景には、診療報酬制度や働き方の制約、そして日本独自の放射線科医の立ち位置があります。本記事では放射線科医として10年以上働いてきた経験をもとに、遠隔読影の現状と課題を整理し、「本当に必要な遠隔読影の形」について考えていきます。
放射線科医が不足する背景
日本における放射線科医の働き方は、多くが病院勤務という形を取っています。現状では、フリーランスでも十分に仕事が成り立つほど未読影画像は存在します。それにもかかわらず、自由な働き方が広がらない理由のひとつが「診療報酬制度」です。
病院が画像診断管理加算を取得する際、加算1は遠隔読影体制だけでも算定できます。しかし、加算2以上を取るには常勤の放射線科専門医を配置する必要があるため、病院経営上は「加算のために常勤放射線科医を雇う」という構図が生まれているのです。
しかし、放射線科医は単なる「加算のための存在」ではありません。本来は診断医としてのプロフェッショナルであり、医療の質を高めるために不可欠な役割を担っているはずです。
海外との比較から見えること
私が特に強く感じるのは、海外と日本での放射線科医の立ち位置の違いです。
欧米では放射線科は人気の高い診療科のひとつです。なぜなら「診断医」としての社会的地位が確立されているからです。患者が直接放射線科医から説明を受けるシステムもあり、臨床現場における役割が明確で可視化されています。
一方、日本では「とにかく速く、たくさん読影すること」が求められる風潮が根強く、臨床医や患者と対話する機会は乏しいです。結果として、放射線科医は「見えにくい存在」となり、その価値が十分に評価、活用されていません。
遠隔読影の現状と課題
こうした背景のもと、日本でも「遠隔読影」という仕組みが広がっています。民間の遠隔読影会社に登録すれば、隙間時間を活用して読影を行うことができ、働き方の多様化に繋がる点は確かにメリットです。
しかし、実際に複数の遠隔読影会社で仕事をしてみて、私は次のような課題を痛感しました。
- 報酬が低すぎる:1件あたり1,000円前後。責任や専門性に見合った金額とは言い難い。
- 情報が乏しい:患者背景や臨床経過はほとんどわからず、ただ画像だけを見てスピーディーにレポートを書く作業になってしまう。
- やりがいを感じにくい:患者がどうなったのか追跡できず、責任感や臨床との一体感を持ちにくい。
これでは、放射線科医が「診断医」として力を発揮するどころか、「読影マシーン」と化してしまいます。
現場で感じた「顔の見える読影」の重要性
私が大学病院に所属していた頃、関連病院に赴いて読影をするアルバイトをしていました。移動は確かに面倒でしたが、その場で技師さんや臨床医と顔を合わせ、会話を交わすことができました。
「あの症例、どうでした?」
「この患者さんは実は〇〇の既往があって…」
こうした情報共有を通じて、レポートの精度や信頼性は大きく向上します。何より「自分の診断が臨床に直結している」という責任感を持てる。これは遠隔読影会社のシステムでは得られない感覚でした。
本当に必要な遠隔読影の形とは
では、これからの日本に必要な遠隔読影とはどのようなものでしょうか。私は以下のように考えています。
- 病院と個人の放射線科医が1対1で契約する
- 2〜3人の小規模チームが病院と契約する
この形であれば、病院側とも密接に関わり、症例ごとの臨床背景を共有しやすくなります。その結果、より質の高いレポートを提供できるでしょう。
特に整形外科領域、脳神経、乳腺といった専門性が高い分野では、大手の遠隔読影会社に丸投げするのではなく、専門性を持つ個人・小規模チームと連携する方がパフォーマンスは格段に高いと考えます。
検診レベルの簡易的な読影であれば効率重視でもよいかもしれません。しかし、専門性と責任を伴う読影こそ、顔の見える仕組みが必要です。
まとめ
日本では放射線科医の不足とCT/MRI台数の多さがアンバランスな状態にあり、未読影画像の問題は深刻です。遠隔読影はその解決策のひとつですが、単に「件数をこなす仕組み」として使うのでは不十分です。
放射線科医は本来、診断医としてのプロフェッショナルです。臨床に寄り添い、責任あるレポートを届けるためには、効率だけではなく「質」を担保した遠隔読影の仕組みが欠かせません。
私は、病院と個人または小規模チームの放射線科医が直接契約し、互いに顔の見える関係で診療に関わることこそが、これから本当に必要な遠隔読影の形だと考えています。

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